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2012年10月29日 (月曜日)

アウトレイジ ビヨンド

脚本・編集・監督:北野武

TOHOシネマ西新井にて

 ネットに上がっている予告編とかみどころ映像を見過ぎてしまったせいか、余計な期待をしていたようだ。

 前作の直接的暴力ではなく、言葉の暴力。ということで、名優や実力派の普段はヤクザを演じず凄む芝居をしない俳優たちが、脳血管がぶち切れそうな「怪演」の応酬をする、という期待があった。おれはそれを見て大笑いしたかったのだ。

 前作の、國村隼と石橋蓮司、そしてたけしとその子分たちが繰り広げる「壮大なコント」のような……。

 が、それは違った。

 前作と同じようなことをしても仕方がない、と北野武が思うのは当然だ。

 前作は、親分に振り回されて、傘下の組同士が「毟りあい」をして消耗していくのに、親分側はいい気な物で太っていく。この「毟りあい」の部分があまりにひどくて、ひどすぎて笑ってしまうのだ。國村隼の「カタチだけだからよ」と繰り返されるセリフと、どんどんひどい目に遭わされていく石橋蓮司の気の毒な弱小ヤクザの組長の運命が、あまりにひどすぎて大笑いしてしまうのだ。

 今作は、プロットを考え抜いた、と武本人が語ったように、警察のマルボウというか組対の刑事・片岡が、「マルタの鷹」のように双方を戦わせて消耗させようとする。それには片岡本人の出世欲とかヤクザを牛耳る歪んだ快感とかそういうものがない交ぜになっている。

 ヤクザだって刑事の意のままには動かない。刑事の裏を読み、敵対させられようとしている相手の裏を読み、なんとか自分が有利になるように動く。

 そのへんの駆け引きは、「仁義なき戦い」を彷彿とさせるのだが、どうも中途半端。

 

 この作品の眼目は、過剰なまでの暴力的言葉の応酬だと思っていた。比喩やレトリックの限りを尽くした恫喝に攻撃。これを名優のクサい芝居で堪能できると思ったのだが……。

 案外、「この野郎」「バカ野郎」の単純な応酬で、ボキャブラリーが少ない。まあ、あんまり修辞に凝ると、「ヤクザがこんな凝った言い回しをするか?」とリアリティを失ってしまうだろうが……。

 言葉だけではなく、ヤクザ的論理でどんどん相手を追い込んでいく過程を見たかった。名優が揃っているのだから、言葉で追い込む迫力や怖さは充分に表現できただろうに。

 それと、怒鳴りあいが多いので、室内の場面がかなり多く、しかも、同じ室内が反復して登場するのが、映像的に単調さを感じさせた。

 屋外の場面でも、組長の大邸宅が繰り返し出て来るのは仕方がないとは言え、反対側から撮るとか(そのキャメラポジションは不可能だったりしたのかもしれないが)、もうちょっと工夫が出来なかったのか?

 関西の「花菱組」幹部との怒鳴りあいが「名場面」に設定されているが、西田敏行や神山繁の関西弁が頼りなくて、かなりガッカリ。塩見三省は京都出身だけに安心して聞いていられたが……どうせなら関西出身の名優を使えなかったのか?「カーネーション」では関西出身の全国区俳優を多数使っていたのに。

 マイナスポイントを先に列記してしまうが、北野武は、編集は上手くない。音の使い方が上手くない。もっとずり上げ・ずり下げを使ったり、インサート・ショットを放り込んだりして、リズムに変化を付けられるのに。早撮りで、編集の材料になるショットをあまり撮っていないのかもしれないが。

 伊丹十三は、市川崑の卓越した編集テクニックから大いに学んでいて(って、凄くえらそうな書き方だけど)、伊丹映画の編集は凄かった。それがあるから、北野武の編集は、上手くないなあと思ってしまう。

 早撮りと言えば、一発OKが多いらしいが、今回、小日向文世のカットで、セリフをトチリ寸前のテイクが何ヵ所か使われていた。この名優がとちるのはほとんどリハーサルなしで本番を撮ったからじゃないのか?ちょっと気の毒。

 で。

 今回の名優賞は、塩見三省と松重豊ではないか?塩見三省の凄みは、一番怖かったし、効く。目の前で怒鳴られたらオシッコちびりそうだ。この人も律儀な職人とか板前が似合うが、ヤクザも怖いっ!

 松重豊は、片岡のやり過ぎな小細工を嫌っている組対の刑事。臭いものを嗅いでしまったような顔がとてもよく似合う。

 気の毒だったのが中尾彬。あんなに情けなく命乞いする中尾さんを久々に見た。というか、初めてかも。

 加瀬亮は最後までキレっぱなしで怒鳴りまくり。怒鳴れば怒鳴るほど小者感が増していく感じは、上手い。

 西田敏行は、もっとやれただろう、と思う。押したり引いたり愛嬌あるこの人の持ち味をもっと上手く使って、関西ヤクザのいやらしさが出せたんじゃないのか?

 三浦友和は、今回、ホント、人相が悪いッスねえ!悪いことをしていると三浦友和でもこんな顔になるんだ、という驚きがあった。

 中野英雄は、儲け役。

 今回、もっとも活躍したのは小日向文世だったんじゃないか?すべての糸を引いて最悪の事態に持っていく。最後に撃ち殺されて当然、という感じ。この人は、温かで誠実な芝居も上手いが、無責任でヒラヒラした芝居も上手い。今回は後者がフルパワーで炸裂した。

 名高達男は気の毒。なんせデクノボーなヤクザだし。

 光石研は、ファンとしては、もっと活躍する場面が欲しかった。人を一人くらい殺して欲しかった。

 田中哲司や高橋克典はもったいない使い方。

 しかし、女が出て来ない!一人出てきたけど。まあ、出せば濡れ場みたいになってきてしまうかもしれないが、マクベスの妻みたいな恐ろしい姐さんとか登場しても悪くないんじゃないかと思うのだが。関西系の女優にはそれが上手い人はゴロゴロいるぞ。

 前作は、なんの制約もなく自由に作って、スタッフもキャストも存分に楽しみました、ワルノリもしました、という感じがスクリーンから伝わってきた。

 なんせ、空間的自由があった。椎名桔平が殺される場面のダイナミックさ!

 そういうのが、今作には足りない感じがあった。

 製作条件的に、いろいろ問題があったのだろうか?画面の変化が乏しいし、脚本的にも意外性に乏しかった。人物の動きに意外性がなくて、花菱会の面々は、ほぼ直線的というか、想定内の動きしかしない。せっかく西田さんを使ったのに、もったいない。

 誰か、イキのいい脚本家を立てて、ああでもないこうでもないと一緒に書く方がいいんじゃないか?

 今や北野武と言えば、批判するのはタブーみたいな存在になってきたが、着眼点は面白いのに、それを膨らませてもっと面白くするのは、映画のプロというか映画の職人の技をもっと利用すればいいのに、と思う。

 それを考える時、笠原和夫って、凄い人だったんだなあ、としみじみ思う。「仁義なき戦い」がめっぽう面白いのは、出て来る人間が面白いからだ。言うことはクルクル変わるし、敵味方はコロコロ変わる。笠原和夫の辛辣な人間観察の賜物だと思う。武の人間観察もモーレツに辛辣なんだから、ヤクザの裏切り裏切られの人間関係を、もっと描き込めばよかったのに、と思った。

 もうヤクザ映画は撮らないかもしれないが、次に作る時は、そういう映画を観たいなあと思う。

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