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2015年10月 3日 (土曜日)

キングスマン

20150828211810 脚本:マシュー・ヴォーン、ジェーン・ゴールドマン/監督:マシュー・ヴォーン

TOHOシネマズ西新井にて

 本家本元の「007」を作っているイオン・プロなどはこの作品を観て真っ青になり、世界的に大ヒットを飛ばしていることに、ますます真っ青になってるんじゃないか?

 この作品の中で登場人物が再三口にしているが「最近のスパイ映画はリアルすぎて宜しくない」という言葉を、この作品は、そのまんま映画にして見せた。

 やっぱりね、映画は、組織がチームになってあーでもない、こーでもないと練り上げて、マーケティングがどうのとやって、最大公約数的なモノにしてしまうより、マシュー・ヴォーンのような個性的な人物が、自身の思いをキョーレツに貫いて描き出す方が絶対に面白い。ストレートだし、作り手の思いがビシビシと伝わってくる快感がある。最大公約数的な作品ではないから、場面によっては、観客によっては拒否反応も出るかもしれないが、ハマれば凄い。

 おれは、ハマった。完全に、ハマった。

 「キングスマン」は期待に違わぬ、大傑作にしてチョー痛快なメチャメチャな快作だ。かつてのスパイアクション映画の売りだった荒唐無稽さ大爆発。そしてマンガのような大殺戮大会のナンセンス極まりない爆笑アクション!ここまで行けば、笑うしかないだろう!良識とかなんとかと言い出す方がバカだ。

 何と言っても、コリン・ファース!

 ものすごくチャーミング。ブリティッシュ・エレガンスを滑稽なほど前面に押し出しているが、それがギャグにならず最高に決まっているのが凄い。

 おれも、彼の言葉にしたがって、仕立てのいいオーダーメイドのスーツが欲しくなったぞ。

 そんなブリティッシュ・トラディショナルなスーツに身を包んだ「英国紳士のステレオタイプ」みたいなコリン・ファースが、実に見事なアクションを披露する。この衝撃は、言うならば、ローレンス・オリヴィエがジェームズ・ボンドを演じて、ション・コネリー級のアクションを見せたような衝撃。

 日本の男優で言えば……山村聰とか中村伸郎とか笠智衆がキレッキレのアクションを見せるような……ちょっと違うけど。仲代達矢にしても平幹二朗にしても、日本の男優ってほとんどの人がアクションはやってるからねえ。歌舞伎の人はアクションは得意中の得意だし。

 プロローグは、1997年の中東。作戦のミスを犯したのに仲間の犠牲で生き延びたハリー(コリン・ファース)は、遺族の元を訪れて、「困ったときは」とメダルを渡す。

 そして17年後。

 アルゼンチンの雪で覆われた山頂にある山小屋と言うには立派な邸宅に誘拐されたアーノルド教授を救出に来たエージェントが、実にカッコイイ!この男こそ本来のジェームズ・ボンドだ!と思ったら、あっさりと真っ二つに裂かれて殺されてしまう。この死に方があまりに凄いというか、マンガなので、笑うしかない。

 義足が鋭いナイフになっているというのは怖いし素晴らしいし、それが美女というのがまたまた素晴らしい。この手の映画は、こうでなくっちゃ!

 ここからはもう、アレヨアレヨという展開で、完全に、マシュー・ヴォーンの手の平の上で転がされる。

 犠牲になった仲間の遺児は青年になっているが、環境の悪さからマジメになりきれない。ワルから盗んだ車で、パトカーとチェイスをして捕まるのだが、このチェイスが、車を猛然とバックさせてのチェイス。これは見た事がない!

 青年は、ここで初めて「困ったときに使え」と言われたメダルを使うと……ハリーがやって来て、「組織」(キングスマン)にスカウトする。

 フリーメーソンみたいな組織だが、第1次大戦で多くの「同志」が死んで、その莫大な遺産で組織は運営されている。いかなる政府・軍隊から完全独立していて、目的は「世界平和」!

 サヴィル・ロウにあるテーラーの他に、ロンドン郊外に巨大な本部がある。その間を超高速鉄道(真空のシリンダーの中を圧縮空気で移動するみたいなヤツ)が繋いでいる。本部の地下にはこれまた巨大な飛行機の倉庫がある。もう、バカバカしくなるほど大掛かり。

 いいねえ!極めていかがわしくてもっともらしくて、絶対あり得ねー組織。

 で、ハリーは、ワルが集まるパブで、鮮やかに連中を料理する。

 このシーンが見事で、もう、ここからは夢中で見ることになる。

 コリン・ファースのアクションは、宣伝文句の通りに「キレッキレ」で、凄い。いや、ただ身のこなしにキレがあって鮮やかと言うのではない。常に品があってエレガントなのだ。

 たぶん、英国人が見たら、もっと大爆笑するんじゃないか?ステレオタイプの英国紳士が突然、無茶苦茶に暴れるんだから!

 映画は、コリン・ファースの個人技にだけ頼らない。

 彼がスカウトした青年エグジーのトレーニングというか成長物語でもある。

 このスパイ・トレーニングは独特で、「ウラをかく」要素があるから一筋縄ではいかない。

 振り落とされるメンバーの中には、チャールズ皇太子そっくりに見える上流階級出身を鼻に掛けた絵に描いたような嫌な奴が出て来るが……。細かいところまで抜かりがない、マシュー・ヴォーン。

 まあ、この映画のサブテーマは「人間の価値は出身では決まらない」だから、こういうキャスティングというかキャラクター付けはまあ、当然のことか。

 青年エグジーのトレーニングの最中に、ハリーは敵の攻撃を受けて倒れてしまう。

 敵・ヴァレンタインは、天才IT長者で環境保護運動に熱心だったが、その思想が行き着いた先は「地球にとって人間はウィルスだ。人間が地球をダメにする。だから、無駄な人間を減らさなければならない」という、半分頷ける過激思想。これをサミュエル・L・ジャクソンが、一見、テキトーに演じている。モデルにしたのはスティーブ・ジョブズらしい。「あんなに影響力のある人物が悪の道に走ったら……という感じでやってみた」らしい。同じ長者でもビル・ゲイツじゃないのね。

 回復したハリーは、ヴァレンタインが「人類相打ち計画」のテストをやるらしいケンタッキーの田舎にある「超ウヨク保守反動白人キリスト教至上主義」の教会の礼拝に参加するが、牧師によるあまりに差別的な「説教」に腹を立てて席を立とうとするが、隣の狂信者のおばさんに止められる。そこでハリーが言うセリフが秀逸。大笑いしたが、客席はシンとしていたねえ。

 ここでヴァレンタインからの謎の「司令」が飛んで、教会にいた全員が殺しあいを始める。これにハリーも参加してしまって、鮮やかに全員を殺してしまう。

 この場面が賛否両論なんだろうなあ。ワルノリの極みなんだけど。

 教会の外に居たヴァレンタインとハリーの対決。

 ここでハリーはあっけなく撃ち殺されてしまう!

 えええええっ!

 ここでハリーが死んじゃうの!

 組織のリーダーは、マイケル・ケイン。この映画のスパイのイメージは、彼が演じたハリー・パーマーをぐっとゴージャスにした感じだよなあ。80歳を超えたケインに求めるのは酷だけど、彼のアクションも、ほんの少しでも見たかった……でも撮影中に死なれても困るが。

 この組織のリーダーもヴァレンタインの思想に共鳴していた!というドンデン返しがあり、その罠にかかったエグジーは、鮮やかな手腕でその危機を脱する。

 そうして、ラストの大クライマックス!

 マシュー・ヴォーンはスウェーデンに恨みでもあるのか?日本語字幕では「スカンジナビアのある国」とか訳されていたが、画面にははっきりスウェーデンと出るし、原語のセリフでもハッキリ言ってるし……そのスウェーデンの首相がヴァレンタインの思想に共鳴するが、王女は断固拒否(しかしのちほどエグジーに救出されたときは「お礼に後ろの穴を使ってもいいわ」とアナルセックスを許すんだぜ!)。

 いやもう、怒濤のクライマックスで、本当にすべてのことが多発的に並行して起きるので、見ている側はもう、唖然として見守るしかない。

 エグジー対義足の美女。ヴァレンタインの「戦慄の悪の計画」を失敗させて、ヴァレンタイン協力者を次々に「爆破」していく。首が吹っ飛んで、首なし死体がゴロゴロ。

 とにかく、あまりにヒドイ大殺戮で、ヒドすぎて……そういう演出にしてあるのだが……大笑いした。しかし、1/3ほど埋まった客席はしーんとしている。こんな大笑いできるシーンで、どうして笑わないんだ?この映画はコメディだぞ!

 昔、渋谷で見たコーエン兄弟の「バートン・フィンク」も、あんなに笑えるのに、誰も笑っていなかったしなあ。小林信彦の言だけど、「日本人は笑わない」ねえ。こんなによく出来た大爆笑コメディ・アクションなのに!

 もう、阿鼻叫喚で、ここまで来たら、大爆笑でしょう!

 ラストはもちろん、大団円。意外で残酷なオチは、ない。当然である。

 「女王陛下の007」があったように、日本でも「天皇陛下の諜報員」って、出来ないものか……って、007ブームの時に日本も便乗映画を幾つも作ったし、そういう小説もあったけど……それにまあ、この映画を観て刺激を受けた多くのエンターテインメント作家も同じ事を考えただろうなあ。

 完全に荒唐無稽なスパイ・アクション小説。一時凄く流行って、行くところまで行って急にポシャったジャンルだよなあ。でも、そろそろ復活してもいいんじゃないかねえ?しかしまあ、荒唐無稽すぎるとシラケるから、その案配が難しいと思うけど。

 この作品は、本家の「007」をおおいに意識しているし、劇中のセリフにも何度も出て来る。「昔のはよかったが、今のはリアルすぎてダメだ」とか。

 おれも、今のダニエル・クレイグのボンドが大嫌い。あんな野蛮な暴力性剥き出しの、エレガントさもしゃれっ気もないボンドなんか、嫌だ!ダニエル・クレイグは野蛮すぎる。晩年のロジャー・ムーアはアクションが痛々しかったが、あのユーモアと優雅さと余裕は好きだった。いかにもオトナ、という感じで。しかしダニエル・クレイグはストリートのワルがそのまんまMI6に就職したみたいじゃないか。

 この作品は、「007」が昔は持っていたエレガンスというか優雅な雰囲気をとても大切にしつつ、キッチュで荒唐無稽な「オトナのマンガ」の線を至極マジメに追及しているから、現在の「007」より本当の(イアン・フレミングのイメージの)「007」に近いだろう。フレミングの抱いたイメージは、ジェームズ・メイスンかデヴィッド・ニーヴンだったらしい。どっちもアクション俳優じゃないよねえ。

 堕落しきった(ごく一部の怪獣ヲタクにだけアピールするようなクソ映画でしかなくなってしまった)東宝ゴジラに対し、金子修介という才人が樋口真嗣と組んで、画期的な平成ガメラが三部作を作り出し、怪獣映画本来のスリリングでサスペンスで恐怖満載の鮮やかな作品に仕上げて、生ぬるくて誰の作品か全然作者の顔が見えない東宝ゴジラを完膚なきまでにぶった切って大勝利を収めたように、マシュー・ヴォーンの本作は、本家「007」に「本来のボンドはどう言うものか」と正面から問いかけたと思う。

 何事も、本家本元が一番だとは思うが、本家本元は「常にヒットしなければいけない」という呪縛があるので、このような外野が自由に発想して「本来の本家本元の姿」をきっちり再構築するという冒険が出来ない。その点、マシュー・ヴォーン監督のチームは、驚異的な鮮やかさと手練手管で、本家の007を粉砕したぞ!

 これぞ、スパイアクションの本当の姿だ!

 いやもう、大興奮。上記のように平成ガメラ第1作を見たときの飛び上がりそうな興奮を思い出して、なんとも幸せな気分で映画館を出た。

 あと2,3回は見たい。

  いやしかし、この映画はロンドンの映画館で観たいねえ。彼らがこの映画のハリーにどういう反応を見せるのか、知りたい。とんでもない時代錯誤の俗物でお笑いの対象なのか、それとも今も現役で生きている英国紳士の魅力を再発見したのか、彼らの生の反応が知りたいのだ。

 おれなんかからすれば、コリン・ファースはすこぶるカッコイイし、話す正統派キングス(クィーンズ)・イングリッシュも心地いいし、ブリティッシュ・トラディショナルなスーツはカッコイイし、上品な身のこなしもエレガントで、とても憧れちゃうんだけど……。

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