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2020年1月14日 (火曜日)

「家族を想うとき」の感想

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脚本:ポール・ラヴァーティ 監督:ケン・ローチ
ヒューマントラストシネマ有楽町にて

 

 ケン・ローチの前作「わたしは、ダニエル・ブレイク」は、病気になって生活保護を受給するしかなくなった大工が直面する硬直した官僚的なシステムに憤慨しつつシングル・マザーとともに奮戦する物語で、描かれる現実はかなり苛酷なのだが英国的なユーモアを交えた語り口に魅せられた。
 この作品で引退を宣言したケン・ローチだが、ますます悪化していく英国社会に黙っていられなくなって引退を撤回して、本作を作った。
 だから、本作にはユーモアはなく、怒りが充満している。ただただ厳しい現実を見せられる。「やりがい搾取」の世界。これは英国だけの問題ではなく、全く同じ事が日本でも進行中だ。前作で問題提起された事も、日本と全く同じだし。日本だと、コンビニを舞台にしたほうがいいかもしれないが……。
 英国でも日本でも、どんな業種でも「フランチャイズ」って、本部にいいようにされて現場の人間はすべてを吸い取られて捨てられる。悪魔のシステムと言われても仕方がない。
 救いは、ない。前作も、主人公が死んでしまうのが一種の救いになっていた。新自由主義の今の世の中は、死ななきゃ楽になれないのだ。
 映画は「ターナー一家」を描いている。
 父親のリッキーは建設や造園の仕事をやっていたが上手くいかず、独立自営業者として宅配の仕事を請け負う。このシステムは実に巧妙で、「働けば働くほど儲かる。頑張ればその分儲かる」と言われるが、配達に使う車を借りると高額だし、ノルマはきつい。事故起こしても怪我を負っても自己責任。配達できなくなった分は自力で誰かを手配しなければならず、それができなければ厳しいペナルティが科せられる。
 どう考えても、「まんまと搾取される」構造だと思うのだが、こういう「ゼロ時間契約」は英国では増加していて、単純労働から近年では大学講師や医療専門職などの専門職にも拡大しているらしい(「ゼロ時間契約の増加は何故問題か」←リンク)
 強力だった英国の労働組合もいつの間にか牙を抜かれて、労働者を守らない機関に成り下がってしまったらしい。これは日本も同じだ。いや、日本は昔から会社ありき・会社を守るための労組だったけれど……。
 父親リッキーも仕事に追われてまったく報われないが、家族の時間が持てないと嘆くところは日本よりも人間的じゃないかと思ってしまう。日本は「残業するのが美徳」で遅い時間に帰宅するのが当然みたいなことになっていた。しかし、昭和40年代頃までは、サラリーマンは定時で退社して、ちょっと飲んでも19時くらいには帰宅して、家族団欒の夕食を食べていたんじゃなかったか?
 リッキーよりも母親のアビーの方が苛酷だ。介護職の彼女はリッキーの強い要求で仕事に必要な車を手放してバスで移動しなければならず、介護の仕事は気苦労も多い。そして学校から呼び出される。ルールにがんじがらめになって、非人間的な対応を強いられるのも同じ。いや、人間を相手にしている分、アビーの方が大変だ。おまけに短気なリッキーと子供たちの間に入らなきゃならないし……。
 必死で働いているのに、報われない社会。ホリエモンは「やり方が悪い」と突き放すんだろうけど……そりゃ、もっと利口なやり方はあるはずだとは思う。しかし、すべての一般人が「もっと利口なやり方」を見出せるとは限らない。何でもかんでも自己責任として切り捨てる今の社会のあり方が正しいとは全く思えない。

 

 リッキーや上司のマロニー、そして子役の二人はほとんどアマチュアだがオーディションで選ばれ、アビー役のデビー・ハニーウッドは映画初出演。ケン・ローチは彼らの生の表情を的確に捉えている。
 そして、見事なのは脚本。フランチャイズの宅配業の苛酷さや問題点、訪問介護の仕事の歪み、家庭生活への圧迫などの色組んでお互いが絡まった難しい問題を整理して魅せてくれる手際は素晴らしい。それをきっちり見せてくれるケン・ローチの演出は可不足なく安定していて説明不足や曖昧な描写で「え?なんで?」と思わせるところがない。見事だ。
 このへん、日本の是枝監督と相通じるものがある。対象を熟知しているからこその明解さと、あえて残す問題点。

 

 この作品は救いはないが、あえて言えば、子供たちの優しさか。妹ライザはとても聰明でしっかりしているし、兄のセブも危なっかしいし反抗的だけど芸術的才能があって、反抗していても両親のことを思っている。この二人がしっかりしている限り……。

 

 帰り道に見た有楽町の町はきれいだし、山手線の車窓から見る丸の内や秋葉原もきれいだ。しかし……。
 繁栄の裏には搾取がある。こういう社会構造は時間をかけて是正されたはずではなかったのか?50年かけてマシになってきた社会は7年で元に戻ってしまった。
 まさに生き血を吸われて疲弊した社会。こんなへろへろな状態は長続きしない。社会全体がへこたれてしまうか、民衆がノーの意思を突きつけるか。
 日本は、国全体が無気力になってへこたれている。しかし英国はEU離脱を含めた変革を求めた。それはアメリカも同じで、搾取されまくってきた層が、トランプに走ったのだ。
 どっちにしても、「報われない社会」「搾取され続ける社会」は長続きしないよ……。

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